「エチオピアのナチュラルは華やか」「ブラジルはナッツのよう」…産地の大まかな特徴は分かってきた。しかし、コーヒー豆専門店の通販サイトを見ていると、さらに不可解なキーワードに出会うことはありませんか?

「ケニア SL28」「タンザニア ピーベリー」「スマトラ ギリン・バサ」。これらは、コーヒーの味わいを決定づける、産地に深く根付いた「秘密のコード」のようなものです。この暗号を解読することこそ、あなたが「コーヒーを深く知る人」へと進化し、通販サイトの膨大な豆の中から、真に価値ある「運命の一杯」を探し当てるための鍵となります。

こんにちは。「宅カフェ向上委員会」委員長です。

この記事は、コーヒー探求の次のステップに進みたいあなたのための、「産地特有の個性」に焦点を当てた深掘りガイドです。これまでの記事で触れたゲイシャやアナエロビックとは全く異なる、アフリカやアジアの産地が持つ、伝統的な品種や精製方法を徹底的に解説します。

このガイドを読めば、あなたはもう通販サイトの専門用語に怯むことはありません。その言葉が意味する「味わいの理由」を理解し、自信を持って新しい豆の購入ボタンを押せるようになるはずです。さあ、あなたの知的好奇心を満たす、コーヒー探求の旅へ出発しましょう。

アフリカ編:なぜケニアは酸っぱく、タンザニアは丸いのか?

アフリカ大陸は、コーヒー発祥の地であり、その風味は中南米とは全く異なります。特にケニアとタンザニアは、知れば知るほど面白い、独自の個性を持っています。

1. ケニア:「SL28 / SL34」という酸味の遺伝子

ケニア産のスペシャルティコーヒーを飲んだ時、多くの人が「トマトジュースのような」「カシスのような」と表現する、非常に明るく、ジューシーで、複雑な酸味に驚かされます。この独特な風味の秘密は、ケニアが誇る二つの品種、「SL28」と「SL34」にあります。

「SL」とは、1930年代にケニアのスコット研究所(Scott Laboratories)で選抜・開発されたことを意味します。SL28は、乾燥に強く、風味特性が極めて優れており、あの複雑な酸味と甘みの骨格を形成します。SL34は、より多収穫でありながら、SL28と似た風味特性を持ちます。これらSL種は、他のどの国の豆にもない、ケニアコーヒーのアイデンティティそのものなのです。

通販サイトで「ケニア SL28」という表記を見かけたら、それは「この豆は、ケニア特有のあの素晴らしい酸味を体験できますよ」という品質保証のサインです。ぜひそのユニークな風味を体験してみてください。

2. タンザニア:「ピーベリー(Peaberry)」という丸い豆の奇跡

タンザニアの「キリマンジャロ」コーヒーを通販サイトで探していると、「ピーベリー」という言葉をよく見かけます。これは一体何でしょうか?

通常のコーヒーチェリーには、平たい面を持つ二つの種子(豆)が向かい合って入っています。しかし、全体の約5%ほどの確率で、果実の中で種子が一つしか育たないことがあります。この時、豆は平たくならず、丸い形状(Pea=豆、Berry=実)のまま成長します。これが「ピーベリー(丸豆)」です。

ピーベリーは、タンザニアだけでなく世界中の産地で発生しますが、タンザニアでは特にこのピーベリーだけを選り分けて、「タンザニア ピーベリー」として高値で取引する文化があります。丸い形状のため、焙煎時に火が均一に入りやすく、二つの豆に行くはずだった栄養が一つの豆に凝縮されている、とも言われています。その味わいは、通常の豆よりも酸味がシャープで、風味が凝縮され、クリーンな後味が特徴です。

アジア編:なぜスマトラは土の香りがするのか?

アジアのコーヒーは、中南米のバランスとも、アフリカの酸味とも異なる、独特の風味を持っています。その最大の秘密は、インドネシア・スマトラ島に伝わる伝統的な精製方法にあります。

スマトラ:「ギリン・バサ(ウェットハル)」という伝統の精製

インドネシア・スマトラ島産の「マンデリン」コーヒーを飲んだ時、他のどの産地にもない、「アーシー(Earthy)」と呼ばれる独特の風味を感じたことはありませんか? それは、まるで湿った土や、ハーブ、スパイス、あるいは革製品を思わせるような、重厚で複雑な香りです。

この独特の風味は、品種ではなく、**「ギリン・バサ(Giling Basah)」**という、スマトラ島特有の精製方法(ウェットハルとも呼ばれます)によって生み出されています。

一般的な精製(ウォッシュド)では、豆を完全に乾燥させてから脱穀(パーチメントを剥がす)します。しかし、多湿なスマトラ島では、乾燥に時間がかかりすぎるため、豆がまだ水分を多く含んだ**「生乾き」の状態**で、強制的に脱穀してしまいます。そして、その「むき出しの生豆」の状態で、再び乾燥を続けるのです。

この生乾きで脱穀するという荒々しいプロセスが、豆に独特の深い緑色を与え、同時に、あの「アーシー」で「スパイシー」な、マンデリン特有の力強い風味と重厚なコクを生み出します。これは、他の産地が目指す「クリーンさ」とは真逆の、個性を最大限に引き出すための伝統技術なのです。

通販サイトで「スマトラ マンデリン ギリンバサ」という表記を見つけたら、それは「あの土のような独特のコクを味わえますよ」というサインです。この強烈な個性は、一度ハマると抜け出せない魅力を持っています。