「ゲイシャ種の華やかな香りに感動した」
「ケニアのSL種が持つ、鮮烈な酸味の虜になった」

スペシャルティコーヒーの探求を始めたあなたが、そうしたスター品種に出会った後、次に抱く疑問は何でしょうか。それは、「では、私たちが毎日飲んでいる、より身近なコーヒー豆は、一体どのようなルーツを持っているのだろう?」という知的好奇心かもしれません。

コーヒーの世界は、単なる産地や精製方法だけでなく、「品種改良」と「突然変異」という、科学と農業の絶え間ない努力の歴史によって形作られています。あまり知られていない、しかし現代のコーヒー産業を支える重要な品種たち。その背景にある物語を知ることは、あなたのコーヒー選びを、より深く、より確かなものに変えてくれます。

こんにちは。「宅カフェ向上委員会」委員長です。

この記事は、コーヒー探求の「次のステップ」に進みたいあなたのための、コーヒー豆の「遺伝学」と「品種改良」に焦点を当てた専門ガイドです。これまでの記事で触れたスター品種とは異なる、「矮性種」「ハイブリッド種」「希少な突然変異種」といった、コーヒーの歴史を形作ってきた重要な豆たちの秘密を解き明かします。

このガイドを読めば、通販サイトで見かける「カトゥーラ」や「カスティージョ」といった名前が、単なる記号ではなく、豊かな物語を持つ「選ぶべき理由」に変わるはずです。さあ、あなたの知的好奇心を満たす、コーヒーの科学の旅に出かけましょう。

1. 効率性の革命:「矮性(わいせい)突然変異種」の世界

コーヒーの歴史は、「突然変異」によって大きく動いてきました。特に、樹高が低くなる「矮性(わいせい)」の突然変異は、コーヒーの生産性を劇的に向上させた革命でした。

カトゥーラ (Caturra):ブルボン種が生んだ「小さな巨人」

1930年代、ブラジルの農園で、伝統的なブルボン種の中に、明らかに樹高が低い木が発見されました。これが「カトゥーラ」です。樹高が低い(矮性)ことの最大のメリットは、**「高密度植栽」**が可能になることです。同じ面積でも、より多くの木を植えられるため、収穫量が飛躍的に向上しました。

風味は、親であるブルボン種の明るい酸味と甘みを受け継ぎつつ、より軽やかで、時にはシトラスのような爽やかさを感じさせます。中南米、特にコロンビアやコスタリカで広く栽培されており、現代のスペシャルティコーヒーの基盤を作った品種の一つです。

通販サイトで「カトゥーラ」を見かけたら、それは「ブルボン直系の、明るい酸味を持つコーヒー」のサインです。特に、果実が黄色く熟す「イエローカトゥーラ」は、より甘みが強いと評価されています。

パカス (Pacas):エルサルバドルの至宝

カトゥーラがブラジルで発見されたブルボンの矮性種なら、「パカス」はエルサルバドルで発見されたブルボンの矮性種です。1940年代にパカス家(Pacas family)の農園で見つかったことから、その名が付きました。

風味特性はカトゥーラに似ていますが、エルサルバドルの土壌と組み合わさることで、より滑らかな口当たりと、蜂蜜やチョコレートを思わせる優しい甘みが際立つ傾向があります。そしてこの「パカス」こそが、以前の記事で紹介した巨大豆「パカマラ」の片親となった、非常に重要な品種なのです。

2. 生存への挑戦:「ハイブリッド品種」の物語

コーヒーの歴史は、「さび病(Leaf Rust)」という恐ろしい病気との闘いの歴史でもあります。この病気を克服するために生み出されたのが、異なる種を交配させた「ハイブリッド品種」です。

ティモール・ハイブリッド (Timor Hybrid):ロブスタ種の血を引く救世主

1920年代、東ティモール島で、アラビカ種と、病気に強いが風味で劣るロブスタ種が**自然交配**した「ティモール・ハイブリッド」が発見されました。これは、さび病への耐性を持ちながら、アラビカ種の風味特性をある程度維持しているという、奇跡的な交配種でした。

この「ティモール・ハイブリッド」が持つ「耐病性」の遺伝子は、後に多くのハイブリッド品種を生み出すための重要な親となります。

カティモール (Catimor) / カスティージョ (Castillo):生産者を守る主力品種

「カティモール」は、先ほどの矮性種「カトゥーラ」と「ティモール・ハイブリッド」を人工的に交配させて生まれた品種です。カトゥーラの「生産性の高さ(矮性)」と、ティモールの「耐病性」を兼ね備えています。しかし、ロブスタ種の血を引くため、風味が単調で、ゴムのようなオフフレーバーが出やすいという欠点も指摘されてきました。

このカティモールをさらに改良し、コロンビアの国家コーヒー生産者連合会(FNC)が国の威信をかけて開発したのが「カスティージョ」です。カスティージョは、カトゥーラをベースに、より風味を改善し、さび病への耐性を高めた品種で、現在のコロンビアの主力となっています。

一昔前は「ハイブリッド=美味しくない」というイメージがありましたが、近年の栽培技術の向上により、カスティージョ種でもシトラス系の明るい酸味や甘みを持つ、高品質なスペシャルティコーヒーが数多く生まれています。通販サイトで「コロンビア カスティージョ」を見かけたら、それは「さび病と闘う生産者の努力の結晶」であり、現代コロンビアの味を代表する豆である証拠です。

3. 遺伝子の秘宝:あまり知られていない希少品種

ゲイシャ種以外にも、世界にはそのユニークな特性からマニアに探し求められている、希少な品種が存在します。

ラウリナ (Laurina) / ユーゲニオイデス (Eugenioides):「低カフェイン」の系譜

「カフェインを控えたい、でもデカフェは物足りない」という方に知ってほしいのが、生まれつきカフェイン含有量が少ない品種です。

「ラウリナ」は、ブルボン種の突然変異で、カフェイン含有量が通常の半分程度しかありません。豆の形が尖っていることから「ポインティ(Pointu)」とも呼ばれます。その風味は、苦味が非常に少なく、緑茶や麦芽のような独特の甘みと、繊細な酸味を持つ、非常にユニークな味わいです。

さらにマニアックなのが「ユーゲニオイデス」です。これはアラビカ種の「親」にあたる原種の一つで、カフェイン含有量は極めてゼロに近いです。その味わいは、もはやコーヒーとは呼べないほど、甘く、フルーティーで、まるでシリアルのような香ばしさを持つと言われています。抽出の競技会などで使用され、その特異な風味で注目を集めています。

これらは生産量が極めて少なく高価ですが、「ラウリナ」は通販サイトでも見かけることがあります。コーヒーの新しい可能性を体験したい方は、ぜひ探してみてください。

知識を「次の一杯」に活かす、通販サイトの歩き方

これらの知識は、通販サイトで豆を選ぶ際に、強力な武器となります。

1. 「品種」で検索し、風味を予測する

通販サイトの検索窓に、今回学んだ「カトゥーラ」「カスティージョ」「ラウリナ」といった品種名を直接入力してみましょう。その豆が持つ遺伝的な背景を知っていれば、その豆が「明るい酸味を持つ可能性」や「甘みが強い可能性」を、購入前に予測することができます。

2. 「農園の情報」で、ハイブリッド種を見極める

「カスティージョ」や「カティモール」といったハイブリッド品種は、栽培される「標高」が風味に大きく影響します。標高が低い場所で栽培されたものは風味が単調になりがちですが、高地で丁寧に栽培されたものは、素晴らしい風味を持つことがあります。通販サイトの商品説明で、標高や農園の情報をしっかり確認することで、高品質なハイブリッド種を見極めることができます。

3. 少量パックで「味の探求」を楽しむ

ラウリナや、特定の農園のカスティージョなど、試してみたい希少な豆は、必ず100gや200gといった少量パックから購入しましょう。自分の舌で、その品種が持つ物語と風味を確かめる。この「味の探求」こそが、宅カフェの最大の喜びです。

まとめ:品種を知れば、コーヒーはもっと面白くなる

コーヒーの世界は、私たちが思う以上に科学的で、生産者の絶え間ない努力によって進化し続けています。矮性種が生産性を高め、ハイブリッド種が病気からコーヒーを守り、希少な突然変異種が私たちに新しい味覚体験をもたらしてくれます。

今回ご紹介した「あまり知られていない」品種たちの物語は、あなたのコーヒー選びに、価格や産地名だけではない、「遺伝子」という新しい基準を与えてくれるはずです。

ぜひ、この深い知識をコンパスに、通販サイトという広大な海から、あなただけの「運命の一杯」を探し出してみてください。私たち「宅カフェ向上委員会」は、これからもあなたのコーヒーライフが素晴らしいものになるよう、活動を続けていきます。